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山岳ライターの商品体験レポートProduct Report

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鋳物に宿る魅力に迫る!名品「黒舟」と「熊に金棒」の製造現場を見学してきた

スター商事が取り扱う人気商品である「グリルプレート 黒舟」と熊鈴の「熊に金棒」シリーズは、「鋳造(ちゅうぞう)」という金属を加工する方法で生み出されています。この鋳造という言葉。聞いたことはあっても、実際の工程まで知る人は少ないでしょう。

 

どのような作業を経て商品が作られているのか、気になる現場を取材するために、さっそく工場がある栃木県鹿沼市に向かいました。最寄りのインターチェンジから田園風景が広がる道を走ると、製造元である大森鋳造所が見えてきます。

大森鋳造所の敷地内にある工場。ここで商品が作られている

「創業は昭和39年。現在の社長が中学校を卒業後に上京し、下宿しながら学んだ鋳造技術をもとに、地元へ戻ってきて設立したのが、いまの大森鋳造所になります」。

そう会社の歩みを説明してくれたのは、専務を務める大森貴弘さん。黒舟と熊に金棒を生み出したご本人でもあります。

笑顔が素敵な大森専務。黒舟と熊に金棒の生みの親

「趣味で渓流釣りをしていたとき、熊除けの鈴なら工場でも作れると思い立って製作を開始したのが、熊に金棒のはじまりです。女性のユーザーも意識して、試行錯誤しながら私が熊の顔をデザインしました」。

可愛らしい熊の顔が大森専務の手作り

そんな専務の思い付きとキュートなデザインで誕生した熊に金棒ですが、発売開始当初はなかなか取り扱い店舗が見つからず、営業に苦労したそう。しかし、知人の助言から熊に金棒は一気に人気商品へ変貌します。

「本体と振り子を組み立てる作業を簡単にするために、あえて熊のパーツをねじ込み式にしたんです。そしたらネジを回して振り子が引き上がると音が鳴らなくなることに知人が気付いて、消音機能として売り出すべきだとアドバイスをくれたんです」。

“棚からぼたもち”とはまさにこのこと。当時、消音機能が付いた熊鈴は珍しく、この特徴をアピールすることで、またたく間に販路を拡大。それから5年後には同じくヒット商品となる「グリルプレート 黒舟」を発売し、いまではビッグフォレストのブランド名の下で、自社商品の開発を続けています。

 

しかし大森鋳造所が手掛ける商品は、もちろんアウトドア用品に限りません。むしろメインはドアノブなどの建築金物や、ベルトやカバンなどの金具などになります。

失礼ながら細かいパーツを作っているのだなと話を聞きながら思っていたのですが、その納品先を聞いて驚愕しました。なんとドアノブが使われているのは、国会議事堂や総理官邸などの重要建造物。ベルトやカバンなどの金具もいわゆる安価な量販品ではなく、各ブランドの上位モデルに使われているのだとか。

ドアノブやバッテリーの端子など、さまざまな製品を手掛けている

現在、真鍮の鋳物はその重厚感と輝きから、品質が重要視される特別な場所や商品に使われることが多いそうです。そのような高級品に選ばれる部品と同じ現場で黒舟や熊に金棒が作られていることを考えると、少し見る目が変わってきました。

 

一通り話を聞いたところで、ついに製造現場を見学させて頂きます。話を聞いていた応接室がある建物と同じ敷地内に建つ工場では、中央で金属を溶かす炉が稼働しており、その周りで職人さんたちが働いていました。

奥の機械が金属を溶かす炉。高温の液体を完成した型に流し込んでいく

大森鋳造所では溶かした金属を流し込む型を、もっともオーソドックスな方法である砂で作っています。その工程をイラストと共に簡単に説明しましょう。

この工程は大森鋳造所の極秘情報になるので写真が使えない

①:原型を木枠で囲い、砂を入れて押し固める
②:木枠を原型ごとひっくり返す
③:さらに木枠を重ねて、砂を入れて押し固める
④:上の木枠を持ち上げて原型から取り外す
⑤:木枠から原型を取り外す
⑥:取り外した木枠を再び重ねる
⑦:溶かした金属を流し入れる穴を作る
⑧:穴に溶かした金属を流し込む

この流れで原型と同じ形の製品がいくつも作られていくのですが、もちろん書ききれないほど専門的な作業が合間合間に存在します。そしてこれがすべて職人の手作業で行われており、実際に体験してみると難しい。

木枠に砂を入れて指で押し込んでいくのだがこれが大変。専務の腕にも筋が浮かぶ

土を入れて押し固めると簡単に書きましたが、腹筋と指先に力を入れて隙間なく押し込む必要があるので、これが結構な力作業。さらに④では少しでも木枠がぶれると砂が落ちてしまうし、⑤も同様に手元が狂うと砂が崩れてしまいます。もちろん⑥でも寸分違わずに木枠を重ね合わせないと商品の厚みが均一にならず、非常に繊細な作業が続くのです。

型を作る職人さんたち。1日に80〜100個も型を作るのだとか
型に流し込む液体は超高温。アルミで700℃、真鍮で1100℃にもなる

金属を加工する方法には、強い圧力をかけて金属板を曲げるプレス加工や、回転する金属を削ることで所定の形に成形する旋盤加工など、さまざまな種類があり、その方が機械的に作業することが可能です。

たとえば黒舟などはプレス加工で似たような商品を作ることもできるでしょう。しかし、熱を伝えるプレートのあの絶妙な厚みは、鋳造だからこそ実現できると大森専務は言います。プレス加工ではもっと薄くなってしまうのだとか。

「熊に金棒も機械的な旋盤加工で本体を作ることができます。でも真鍮の味わいというか、温もりというか、深い輝きや質感を商品に宿すことができるのは、やはり鋳物だからこその魅力ですね」。

鋳物ならではの質感をまとう黒舟。じつはシグボトルの不良品も素材の一部にリサクルされている

効率を追求する機械化が良しとされている時代ですが、あえて職人の手によって、ひとつひとつ生み出されるビッグフォレストの商品たちからは、どこか温かみが感じられます。熊に金棒の音色に個体差があるのは、機械ではなく人の手によって作られている証なのです。

そのような商品を手頃な価格で手に入れることができる私達は、実は恵まれているのかもしれません。ビッグフォレストの商品は、機械では決し作ることのできない品質をこれからも伝え続けます。

 

BIGFOREST

黒舟M

黒舟L

 

山岳ライター:吉澤英晃

山岳ライター吉澤英晃が、アイテムを実際に使ってみてレポートする連載企画。
登山からキャンプギアまで様々なアイテムの使用感や特徴を紹介していきます。(構成・文:吉澤英晃)

【自己紹介】
大学の探検サークルに入部したのことをきっかけに登山を開始。
社会人山岳会に所属し、夏は沢登り、冬は雪稜からバックカントリーまで、一年中山で遊んでいる。
登山用品の営業職を経験した後、現在はフリーライターとして活動中。

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