スター商事

山岳ライターの商品体験レポートProduct Report

燃料ストーブ

職人が手掛ける国産バーナーの謎に迫る! マナスル工場見学記(後編)

前回紹介したバーナーヘッドの製造工程に引き続き、今回は燃料タンクに関わる工程を見学させて頂きました。

 

一言で燃料タンクと言っても、そこにはさまざま部品が存在します。燃料を吸い上げるシリンダー。燃料を注ぎ入れる給油口。空気を送り込むポンプ。そして五徳を差し込むパーツと、折りたたみ可能な3本のスタンド。

これらが全てメインタンクに取り付れられることで晴れて製品として完成するのですが、ここにも丁寧な手作業がありました。

 

最初に行われるのはシリンダーの取り付け作業。底蓋を取り付ける前のタンクの中央にシリンダーを差し込み、裏からひとつずつネジで固定していきます。しかし、これだけだと不十分。燃料タンクに必要不可欠である完璧な気密性を得ることができません。

中央の管がシリンダー。ひとつずつ手作業で固定していく

そこで必要になるのが、接合箇所の隙間を埋めるはんだ付けの工程です。

場所を再びバーナーヘッドのロウ付けをした第二工場に移し、同様に作業の様子を見学させて頂きました。

 

作業台に裏返したタンクを置き、中央部分をバーナーで約350℃になるまで熱します。しばらくしてから接合箇所に針金状のはんだを押し当てて、液状になったはんだを流し込ませることで隙間を塞いでいくのが一連の流れです。

この工程で使われる“はんだ”とは、鉛とスズを主成分とした合金のこと。理科の授業で基盤の“はんだ付け”を経験したことがある方は多いのではないでしょうか。

左手のバーナーでタンクを熱する。右手に持っているのがはんだ

しかしこの作業にもコツが必要。

「単純に熱するだけだと温度が上がりすぎてしまい、表面からはんだが弾かれてしまいます。それと、はんだの量が多いと使用中に溶け出してしまい、タンクのなかでカラカラと音がすることがあるんです。故障ではないですが、そうならないように絶妙な加減ではんだの量を調整するのが大変ですね」。

そう話してくれるのは、前回ロウ付けの作業内容を説明してくれた職人さん。

 

上手くはんだを流し込ませたらタンクをひっくり返し、今度は表面から接合箇所を熱していきます。

「温度が高い場所に向かって移動するはんだの性質を利用して完全に隙間を埋めていくんです。この時も熱しすぎると上手くいきません。火で熱したり水で冷やしたりしながら手探りで作業しています」。

説明を聞きながら火が当たる接合部分を注視していると、じわじわと銀色の液体が滲み出てきました。

熱すると冷やすを繰り返し、適温ではんだを操り隙間を埋める

「夏は息苦しいほど熱くなり、冬は目の前は高温ですが足元などは冷えるので、それはそれで辛いですね」。

笑いながら話す梶さんの額には、すでに大粒の汗が光ります。

しかし、この作業はシリンダーの取り付けでだけでは終わりません。注油口、ポンプ、底蓋、その他すべての部材が、このはんだ付けでメインタンクに取り付けられるのです。

 

パーツが取り付けられた燃料タンクは次に荒削り(中間研磨)の工程に回り、表面にこびりついた汚れが取り除かれます。これももちろん手作業。燃料タンクを両手でグッと掴み、高速で回転する研磨機に押し当てていくのです。

鈍い機械音で回転する研磨機に力を込めて押し当てる

この作業には相当な力が必要で、女性だと体に押し当てて固定しないと研磨機に弾かれてしまうのだとか。

「高価な商品だから可能な限り綺麗な姿で届けたいですよね」。

話しながらタンクの角度を変えて何度も研磨機に押し当てる職人の腕に筋が浮かびます。

研磨機がとどかないポイントは手作業で汚れを落とし、すっかり綺麗になった燃料タンクは磨く前と後では大違い。しかし工程はまだ続きます。

左が研磨前。真ん中が中間研磨後、一番右は仕上げ研磨後。違いは一目瞭然。

この時点で発見した隙間は再びはんだ付けで補修され、問題ないと判断された燃料タンクは気密性を確認するために、中に水を入れて穴があいていないか確認する水漏れ検査に回されます。

これをクリアすると次に行われるのが仕上げ研磨で、より一層の光沢をまとって戻ってきた燃料タンクは再び水漏れ検査に回し、不備がないかを確認します。

2回目の水漏れ検査をクリアした燃料タンクは、くすみを防ぐ塗装の工程に回り、最後に再び水漏れ検査にかけられます。

結果、ユーザーの手元に届くまでに行われる水漏れ検査は計3回。正直ここまでやるかと思ってしまいますが、これはマナスルが火を扱う商品であり、万が一のことが絶対にあってはならないという強い安全意識の現れでもあるのです。

マナスルは数多くの工程を経てユーザーの手元に届けられる。製造工程を知るとその光沢が一層眩しく感じられる

「マナスルの良さは品質の高さ」。

そう話す𠮷川社長からは、モノ作りに対する職人として誇りがひしひしと伝わってきました。それは作業工程を説明してくた職人さんも同様です。

 

最新ギアを比べると機能などで見劣ってしまうマナスルですが、製造現場ではモノ作りに誇りを持った職人の手で、無機質なスペックなどには替えられない、ユーザーに対する思いやりによって作られていました。

マナスルの本当の魅力は、真鍮の淡い光沢に溶け込んだ、作り手の真剣な眼差しや温もりにあるのかもしれません。

マナスル

マナスル96

マナスル121

マナスル126

 

山岳ライター:吉澤英晃

山岳ライター吉澤英晃が、アイテムを実際に使ってみてレポートする連載企画。
登山からキャンプギアまで様々なアイテムの使用感や特徴を紹介していきます。(構成・文:吉澤英晃)

【自己紹介】
大学の探検サークルに入部したのことをきっかけに登山を開始。
社会人山岳会に所属し、夏は沢登り、冬は雪稜からバックカントリーまで、一年中山で遊んでいる。
登山用品の営業職を経験した後、現在はフリーライターとして活動中。